総入れ歯にはどんな形状がありどのようにして固定されているのか

歯を失ってしまえば多大な影響を受けますが、総入れ歯を装着することで食べ物をしっかりと噛むことができるようになり、健やかな生活を送る方が増えています。そんな総入れ歯には様々な形状があり、しっかりと固定する工夫がされています。

総入れ歯は口の中でしっかりと固定され滅多なことでは外れることはありませんが、その構造や固定方法について普段はあまり意識することはありません。しかし、その仕組を理解すれば自身にとって最適な総入れ歯を選ぶ際に役立つほか、お口の中から健康な毎日を過ごすために欠かせないヒントが隠されています。近年になり様々な素材や形状を採用した製品が登場しており、患者さんの選択を広げています。今回はそんな総入れ歯の優れた機能について、詳しく解説します。

形状を工夫してしっかりと固定する

総入れ歯

保険の範囲内の治療で用いられる総入れ歯の土台になる義歯床はプラスチック素材のひとつであるレジンで作成され、軽量であるのと同時に加工がしやすく、作成前に取った口腔内の型を高精度で再現することが可能です。レジンは着色することが可能なことから歯茎に近い色にすることが可能で、装着していても一見しただけではほとんど目立つことが無いのも嬉しいところです。部分入れ歯の場合は残されている歯にフックをかけるなどして固定することが可能ですが、全ての歯を失っている総入れ歯の場合にはそのような方法は取れません。そこで総入れ歯では形状を工夫することでフィット感を高めて、食事や会話などで口腔内に動きがあっても外れにくくしています。

下顎の場合は歯茎の上に総入れ歯を乗せますが、義歯床が歯茎の土手にフィットする形状にすることで装着後には安定した状態を保ち続けることが可能です。上顎の場合は重力で物体が下へと落ちる作用が働くことから下顎と同じような方法では固定することは困難で、義歯床を広めにした床口蓋部を作ることで口蓋にフィットします。表面積が増えることでおのずと吸着する面積も増加し、しっかりと固定することが可能です。これを実現できるのも型を作成する段階から始まり、歯科技工士の丁寧な作業により高品質な総入れ歯が作成できるところによるものです。

近年では3Dスキャナーの導入も進みつつあり、誤差が極めて少ない高精度な総入れ歯を作成することも可能となりました。形状の工夫によりしっかりと固定する仕組みが理解できれば、自身に相応しい総入れ歯を選ぶための判断材料を得られます。

高精度な型が質の高い総入れ歯を作る

総入れ歯

どんなに優れた素材を使用し、優れた技術を持つスタッフが総入れ歯を作成できる体制が整っていたとしても、元になる型に不備があれば意味がありません。従来の方法では印象剤を口腔内に入れて型を作成する方法がありましたが、熟練のスタッフが担当しても僅かに誤差が生じていたのは確かです。印象剤は該当する部位に付着させてから十数分はじっとしていなければなりませんが、独特の風味があることから苦手な方も多く、思わず動いてしまってやり直しとなる、誤差が生じた型ができてしまうケースも少なくありませんでした。

これにより完成した総入れ歯を装着した際に違和感を覚え、口腔内の動きを阻害してしまい作り直すことも稀にありました。その一方で昨今普及が進んでいる歯科用の3Dスキャナーなら極めて少ない誤差で型を作成できるだけではなく、印象剤を口の中に入れて我慢する必要もありません。一部のメーカーでは取り込んだ3Dデータは工業用ロボットに送信され、レジンのブロックをレーザーで削り出して、義歯床や義歯を完成させるというシステムも導入されています。これらの機器を導入することで患者さんの負担を最小限にしながら、高精度な型を取ることで質の高い総入れ歯を作ることが可能となりました。

総入れ歯の選び方ひとつで装着した際にきつくもなく緩くもなく、一切の違和感なく食事や会話など楽しむことができます。それだけにどのクリニックに治療を依頼するのか、これまで取り扱ってきた豊富な症例数に加えて採用している素材や工法についてしっかりと調べておくことも重要です。

長期使用後も安定して固定させる方法

総入れ歯

総入れ歯は様々な方法で患者さんそれぞれにフィットする形状のものが作られますが、長期にわたって使い続けることで誤差が生じることがあります。例えば加齢などが原因で口腔内の歯茎や筋肉の形状が変化する可能性がありました。また、総入れ歯のフレームは固い食べ物を無理して噛むなどして、噛み合わせやしゃべり方の癖などで圧力がかかって変形してしまう場合もあります。

総入れ歯を長く大切に使用するにはメンテナンスも重要で、数ヶ月に1度はクリニックに通ってメンテナンスをして曲がったフレームの調整をし、場合によっては作り直しをすることもあります。しかし、それでは通院の手間と時間、費用などがかかることから仕事が忙しい方は放置してしまいがちです。そんな時でも役に立つのが居れば安定剤で、塗布するだけで安定して固定させることが可能です。総入れ歯の義歯床の歯茎に触れる部分に入れ歯安定剤を適量塗布し、装着することで薄く広がり微細な隙間を埋めてくれます。

粘着性の高い安定剤の張力により総入れ歯が固定され、食べ物を噛んでもおしゃべりをしてもずれて外れることがありません。さらに義歯床と歯茎の間を埋めてくれることで細菌が侵入するのを防いでくれるので、細菌が繁殖して気になる臭いが発生するのを防ぎ、歯茎で歯槽膿漏や炎症などが生じるのを防止できるのもメリットです。安定剤の使用は気軽に改善できる方法としては有用である一方であくまでもその場しのぎに過ぎないことから、より質の高い状態を求めるならばクリニックに相談してメンテナンスや作り直しをしてもらうのがおすすめです。

自費治療なら素材や形状の選択肢が広がる

総入れ歯

保険治療の範囲内で総入れ歯を作った場合はプラスチック素材のレジンを使用したものが一般的ですが、これまで実績のある方法である一方でやや物足りなさを感じるケースも少なくありません。レジンの強度には限界があることから硬い食べ物を強く噛んでしまった時に変形し、欠けてしまう可能性があるほか、熱伝導率が低いことから食べ物や飲み物の温度が的確に捉えられない場合もあります。レジンの義歯は色素沈着が発生しやすく、毎日しっかりとお手入れをしていても黒ずんでしまう場合があるのもネックです。

その一方で自費診療にも視野を広げるならば、使用できる素材や形状の選択肢が大幅に広がります。義歯床の一部に金属を使用したものでは熱伝導率が高いことから食べ物や飲み物の温度が適切に判断できるほか、耐久性が高いことから変形や欠けを防ぐことができます。義歯にセラミックを使用した例では硬い素材であることから丈夫で長持ちするだけではなく、汚れも付着しにくいのでいつまでも綺麗な歯を保つことが可能です。

義歯床に歯科用のシリコンを使用している場合には、非常に柔軟性が高いことから歯茎の動きに連動することが可能で噛んで話をするなどした際の口腔内の負担が格段に軽減されます。保険治療は最大でも3割負担で1万円から1万5千円程度となる一方で自費治療では数十万を超えるものもあり金銭的には負担が増加するものの、選択肢が広がることでより質の高い総入れ歯を作成することが可能です。一見すると高額に感じますが、求める生活の質を考慮すれば優れたコストパフォーマンスを持っていることが分かります。

歯は人間が生きていく上で欠かせない部位である一方で、一度失ってしまえば再生することが不可能であることから、それを補う方法として総入れ歯が誕生しました。しっかりと固定して滅多に外れないという優れた構造には長年培われてきた研究成果や医師、歯科技工士に加えて最新のテクノロジーが貢献していることも分かりました。保険治療の他にも自費治療が広がっており、自身に合った素材や工法の総入れ歯を選んでお口の中から健康に過ごす方が増えています。